16 Aug 2021

雅楽の古譜を読む:柳花苑 双調

 ”りゅうかえん”と読む。

鎌倉時代に書かれた音楽書教訓抄によると元は”柳花怨”と書いていたとある。この曲をG Ionianで演奏すると呪っているような感じがしないでもない。


笙という楽器は1つの音毎に対応する管がある。つまり出せる音があらかじめ決まっている。

笙で出せる音にはFがない。したがって双調というGを主音にする調の音階はG IonianかG Lydianになる。
2021年9月6日 G Mixolydianも可能性がある。笙でF#を使わないという手もある。明るい調だろうから、G Dorianはない。

現代の長調短調のように明るい音階と暗い音階が雅楽にもある。それらは西洋音楽の教会旋法と同じ音階構成なので、それを用いて表すことができる。
  • 明るい調:MixolydianとLydian
  • 暗い調:はDorian
Mixolydianは長調の音階の第7音が半音下がっている。Gを主音とすればFが用いられていることになる。
笙にはFはないが、F#はある。そこでG MixolydianのFをF#に変更するとG Ionianになる。これは現在の長調の音階と同じ。しかしながら雅楽の理論には長調の音階はない。Gを主音としてF#を持っている調を検討するとG Lydianになる。
これはG major scale = Ionianの第4音を半音上げた音階。Natural CがC#になる。笙はこの音を持っている。したがって双調はG Lydianと想定できる。

今回読んだ曲の琵琶譜はG Lydianで書かれている。しかし途中に短いがNatural Cが用いられている。
一方で笙の譜はG Ionianで書かれている。

残りの笛たちは音程を操作できるし、箏も左手で弦を押したり、摘んで浮かせたりして音程を操作できる。のでこれらの譜から双調の音階を正確に想定できない。よって音階を正確に推定できるのは琵琶譜と笙譜からだけである。
その2つの譜が異なる調性で書かれている。
それぞれを聞き比べてみるために作ったのが次の動画。


まず琵琶譜通りにG Lydianベースの音階で。
次に笙譜通りにG Ionianの音階で。

次に楽拍子バージョンで。

G Ionianでの演奏は暗い感じがする。これが”柳花怨”と書いた理由だろうか?
G Lydianでの演奏は終始明るい感じがする。

この曲には舞がついており、女性が舞う。国会図書館のデジタルコレクションに信西古楽図があり、その14ページに絵が掲載されている。その絵からは”怨”を表すようには見えない。


双調には他にもう1曲ある。春庭楽。この曲についても以前に記事を書いた。


この記事では双調をG Ionianではないかと考えている。
そして今回の記事ではG Lydianではないかと。しかし春庭楽をLydianで聞いてみるとおかしい。

双調はCとC#をどちらも含んでいる調なのか。


結局のところ琵琶譜の音階がしっくりくる。

横笛や篳篥はNatural CをC#、GをG#にすることを示す記号がない。
これは箏も同じで深く押して全音上げることを示す記号がない。

テンポはDr. Laurence Pickenの研究に従って、現在よりも少なくとも4倍速く設定している。
アンサンブルを精密にするために四分音符を4分割してカウントするという手法が、雅楽では歴史的に勘違いされて、少なくとも4倍遅いテンポになってしまったように見える。

演奏のセンスがあれば、すぐ気づくと思うのだが、少なくとも明治以降このテンポの問題が改善されないまま続いている。バカだね。