5 Jun 2022

読書感想文:林千勝著 近衛文麿 野望と挫折

近現代史研究家の林千勝氏による著作。

彼の著作は次の通り。

  1. 日米開戦 陸軍の勝算 -「秋丸機関」の最終報告書
  2. 近衛文麿 野望と挫折 
  3. 日米戦争を策謀したのは誰だ!ロックフェラー、ルーズベルト、近衛文麿そしてフーバーは
  4. ザ・ロスチャイルド 大英帝国を乗っ取り世界を支配した一族の物語
今回読んだのは2作目の近衛文麿について。彼の生い立ちから亡くなるまでを書いている。小説風ではなく、歴史的資料を元に時系列順に書いている。しかし歴史的な流れを説明するために一旦戻って別の視点から書いている箇所が多いので、どの時期に起こっていることなのか理解しづらいことがある。

読み進めるために支那事変から第二次大戦(大東亜戦争)が終わるまでの歴史を頭に入れておくか、年表があると便利と思う。


この本では昭和、大正、明治など日本の年号が使われているので世界史との対照がしづらい。科学的な本なら西暦に統一してほしい。

近衛文麿は藤原氏の一族であって朝廷で最高位の太政大臣に出世できた家系。朝廷では家毎に出世できる限界があった。

二十歳の時に従五位(これより上が貴族とされる)を与えられたがもらいに行かなかった。中学まで学習院。その後は第一高等学校(近代国家建設のための人材育成を目的とする)へ進み、京大法科へ進む。学生のまま世襲侯爵議員として貴族院議員となる。首相を幾度も務める。

留学していたわけではないので、海外生活中にその国のスパイとかコミンテルン(国際共産党組織)(1919-1943)のスパイとなることがなかった様子。

1919 パリ講和会議(第一次世界大戦の講和会議)に行き、そのまま10ヶ月に渡って欧米視察旅行をする。この時にプロパガンダを目にする。英米本位の平和主義(正義、人道を訴えるが実は一方的な自国の利益追求)にがっかりする。

1937 支那事変から第二次世界大戦(1945 終戦)までの間に3度首相となる。側近に共産党員を多用し、プロパガンダを効果的に用いた。
軍部によって事態収拾が図られていた支那事変を長引かせ、政党を解消して一国一党制度(ナチスのような)を実施して総力戦の戦争準備をし、戦争を回避できないようにお膳立てし、敗戦までの道筋をつけた上で、東條英機に首相を任せて、自分は避暑地へ疎開していた。東條はそれでも戦争回避の道を探った。
戦後、自分や貴族階級の政治家は戦争には手を染めておらず、和平路線を進めており、戦争を主導したのは軍部と共産党員だと主張してGHQに取り入って政治家への復帰を図るも、戦犯として逮捕収監され、東京裁判へかけられるところであった。巣鴨プリズンへの出頭日に自殺を装って暗殺された。
この暗殺に関わっていたのが、近衛が重用した共産党員だったと著者は考えている。近衛によって暗躍していた共産党員による謀略が明るみにされるのを防ぐため。

西鋭夫によると戦後に首相となった吉田茂(クリスチャン)はGHQと取引して自身の政権を保持した。

教訓:
  • スパイを手駒として用いると切り捨てた時に暗殺される。
  • 念入りに偽装工作をしてもバレることがある。
  • 広く情報収拾するのは有益。
対策:
  • 社会正義重視で行動する。
  • スパイの罠を避けるべく注意する。
  • スパイ手法を研究する。
  • スパイ団体とは関わらない。
  • 有能であっても敵対勢力の人材を利用しない。