7 Sept 2020

雅楽の古譜を読む:承和楽 壱越調

 


834-847承和年間に日本人によって作曲された雅楽曲。

伎楽の酔胡の代曲として用いられるとある。その際は笛と打楽器だけで演奏されると思う。

仁智要録と三五要録には2曲づつ収録されている。それらはペアになっている様子。

仁智要録の旋律が原型と思われる。この動画ではそれをテーマとして他の楽器でもユニゾンで演奏している。もちろん其々の楽器の音域に合わせて上げ下げした。

各楽器の独奏の部分は其々の古譜に基づいている。この内最も読み難いのが竜笛譜だった。用いた龍笛譜には拍が付されていなかったし、譜字の量が多く、旋律が単純に変形、装飾されたものには見えなかった。篳篥もそうだが同音反復が幾つも見られるのでタンギングが用いられていたと思う。龍笛には前打音もあり、由のテンポは琵琶より倍速いと思われる。かなりの技量が必要とされたことがわかる。即興演奏を記録したものでFree Jazzのように元のメロディーを頭の中で鳴らしながら、自由に即興するという手法に見える。当然機能和声に基づいていない。

懐中譜には拍が付されていたが、小拍子の方は位置がいい加減で正しいと仮定できなかったので箏の旋律と対象させて音を配置した。龍笛にはこの手法が通用しなかった箇所が圧倒的に多かった。

仁智要録の信頼性はすこぶる高い。三五要録もなかなか信頼できるが時に一拍子余分だったりする。

この曲は古くは6回繰り返して演奏され、平安後期には4回、略す時は2回と説明されている。今回の動画では6回繰り返しにして、最初と最後に箏の旋律をテーマとして演奏し、その間に各楽器の独奏を入れた。

Youtubeには熱田神宮の承和楽の動画があるが、全然違う。

宮中の雅楽は平安時代の後の戦乱の時代に断絶してしまい、秀吉から家光までかかって復興した。それが現代の宮内庁に続く雅楽で熱田神宮のもそうと思われる。明治以降政府が雅楽の演奏が荘厳に聞こえるようゆっくり演奏するように再三求めたので現在は4〜16倍遅く演奏されている。これはDr. Laurence Pickenによって1960年代(?)に指摘されていたのだが、今もって現代の雅楽は下の魅力が分からないほどゆっくり演奏されているわけだ。研究者の間では唐代の大陸中華圏の歌謡曲風の旋律が基本になっているのを確かめている人達がいる。

現在の雅楽のオーケストレーションには一定の法則性があり、古譜に基づいて再作曲されているようである。それ故古譜通りに演奏させたものと大きく異なる。

古代中華圏で流行った歌謡曲を基にしていてもその魅力が全く失われるようなオーケストレーションとテンポ設定で演奏されている現状の雅楽はハッタリ。そんなもの要らない。社会悪と思う。

参考文献

  • 雅楽ー古楽譜の解読 林謙三 東洋音楽選書1969
  • 仁智要録 鷹593
  • 三五要録 伏931
  • 懐中譜 和1368
  • 壱越調曲譜 伏824