前世紀、英国の音楽学者Dr. Laurence Pickenによって日本の雅楽が本来のテンポの4-16倍遅く演奏されているという指摘が行われた。
例えばこの動画では東京芸大の小泉文夫教授の模範演奏を16倍の速さに再生することで本来の楽曲の旋律を聞くことができている。これは非常におもしろい。
宮中の雅楽は平安時代末期に戦乱の世になり、廃れてしまった。秀吉がその復興を支援し始め、家光の頃に完成したものが現在も続いている雅楽である。しかしながら復興に際しては奈良、大阪、京都から楽人を呼び寄せても誰一人として楽曲の元の姿を知る者がおらず、復曲は分担して、それぞれに伝承されているものをつぎはぎして行われたようである。
おそらくこの折りに古譜は読まれたであろうが、同時に演奏してもそろって綺麗に聞こえないし、譜面通りに演奏しようとしても竜笛などは高い演奏能力が必要なのでできなかったかもしれない。
そこで技術がつたない楽人でも演奏できるように古譜をベースにしつつも高い演奏能力を必要としないオーケストレーションが考え出されたということではないだろうか。
ここのところ古譜を読んでいてDTMでそれを再現させている。古譜にある通りに演奏させ、それを合奏させてもたいしておもしろくない。箏の譜面は簡素で美しい。これをユニゾンで演奏する方がまだ楽しめる。即興演奏ができた奏者の演奏で、聴衆も耳が肥えた人達ならば即興演奏が組み込まれていた方が断然おもしろい。
明治以降、政府は宮内庁の雅楽の演奏を権威を感じさせるように荘厳に響かそうとテンポを遅くすることを度々要請していたらしい。
原曲の味わいを感じられず、楽しくもない音楽と演奏の保存に税金がつぎ込まれているのである。まったくもってバカバカしい。
雅楽曲は中華風歌謡曲やインドの仏教系楽劇の曲、東南アジアから伝わったり、朝鮮半島の国々の音楽、そして日本で作られた曲の集成である。現在の大陸の国家は中国であるが、文化大革命によって古い伝統を遺す書籍は焼かれてしまった。雅楽は残っていない。
日本には古譜がたくさん残っている。古譜には雅楽の生き生きとした姿を見ることができる。現行のおかしな雅楽は改めるべきと思う。
参考文献
仁智要録@宮内庁書陵部 鷹593
三五要録@宮内庁書陵部 伏931
懐中譜@東京国立博物館 和1368
壱越調曲譜@宮内庁書陵部 伏824