紫宸殿の玉座の前に狛犬と獅子の像が飾られている。雅楽においても獅子と狛犬の曲がかつてはあった。狛犬は頭に1本角がある。獅子にはない。
天皇の神輿を先導する蘇芳菲は金色の頭に1本角で子供を2匹連れている。しかし信西古楽図にある唐の蘇芳菲は角がなく、全身毛むくじゃらで今の沖縄の獅子舞に似ている。
序 拍子13、12、11
破 拍子12
箏の譜に部分的に笛が書き込まれている。それと懐中譜の譜とは一致しない。
仁智要録と三五要録は対応して複数パターンを掲載している。序が3、破が2。これらには基政、政清と名がある。また破には明運譜拍子二十四とあり、明進譜では倍の拍子をとっていたらしい。
教訓抄p.106
狛犬、破、拍子十一又十二。急、拍子十四。一説これを序破と言う。相撲に用いる。打毬の時右方の勝負の楽とした。舞う者二人。口取り二人。舞い入る時松明を含め(?)ながら入る。楽に破急あり。乱声狛犬でて、乱声狛犬伏す。破を吹くとき松明舞い興す。急を吹く時、火を食う舞いに入った。
古譜によると乱声を吹き入場曲と為す。犬出て付せる時序を吹く。次に大真人出る。出て来たところ犬が大真人を追い噛む時乱声吹く。次破吹き始めるべし。今は序は破となり(?)、破は急である。
p.108
狛笛には「犬」「吉桿」といって、左右無き道の秘事である。
序は他の雅楽曲と比べて異質であり、一定の拍子を持っている。譜や教訓抄が記す通り、かつては破だったと思われる。懐中譜には破と急として掲載されており、其々仁智、三五の序と破と旋律線が似ている。
序の笛は序が破だった頃のものではなく、序として演奏されるようになってから付け加えられたと思われるものがある。破として演奏すると間に合わない装飾がある。
懐中譜にも1拍に9個の音を詰め込んだパッセージがあり、速いテンポでは演奏不可能と思われるので、テンポがゆっくり設定された時のものと思われる。
琵琶にも1拍に多く詰め込まれた箇所があり、その部分は序になってからのものと思われる。
琵琶の譜は8分音符+16分音符の3連符で構成するよう読んだ。唐楽の方では16分音符4つにしていたが、この曲でその読み方をすると曲の生き生きした感じが損なわれた。
破の冒頭の音符は小拍子がついていないので分音符とした。雅楽には珍しいアーフタクトで演奏が始まる。
パーカッションは楽家録より四拍子のものを採用した。獅子は笛と太鼓(+鉦鼓?)のみで演奏されたと思われる。獅子に対応していた狛犬も同様だっただろうか?ここでは通常の高麗楽として三皷を用いた。鉦鼓は伎楽の時には銅拍子だったと思われるので音源ではChinese Symbalを用いた。
参考文献
- 三五要録 宮内庁書陵部 鷹587
- 仁智要録 宮内庁書陵部 伏865
- 教訓抄 日本思想体系 岩波新書
- 懐中譜 国立公文書館 内閣文庫 199-0162
- 楽家録巻之十八、十九、二十一